こんにちは。

生きているとトラブルにも遭ってしまう。今回は交通トラブルのことです。
日常でもっとも多いトラブルは近隣の方、それと交通ではないかな。どちらも嫌なことですけど、遭遇してしまったのでどんなかを伝えます。

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Mとは人名でぼくから身を隠した男だ。

30歳ころである。ある日の御前崎方面へサーフィンしに車で行く道中のこと。裏道を通り、なるべく渋滞を避けるのが常である。その日も家を出ると国道を渡り裏道にすぐ入った。道は狭いが信号がなく朝のラッシュ時でもすいすいと進んで行く。

道幅の狭い清水と静岡の境辺りで一台の小さなトラックがぼくの前へ急に左折進入してきた。『コノヤロー!』と思った瞬間、急に上り坂で停止した。ぼくの方も真後ろで急停止になる。何やってるだと思うすきを与えず、急にその二トントラックがバックして来る。

二トンの前に大型トラックが下り道を突進して来る。ぼくとトラックの差は停止の段階で三十センチほどしかない。しかもぼくの車を気にしなく、素早いバックだった。


「あー、当たる!」


と、つぶやいた瞬間『ドーン、ドーン』と、二回当たった。車がいるのを知らなかったのか、故意に当てたのか。

トラックが止まり、即効で降りてトラックの運転手のドアで『おじさん、何やってんだ!』と突っ掛かった。オヤジは目線を外しながら当てたのを渋々認めた。ぼくの車に気が付かなかったと言った。本当かよと思いながら、修理代請求のためオヤジの住所を聞いた。胡散臭い感じがしたので、免許証を提示させ住所と電話番号を控えた。 オヤジの年は五十代前半。胡麻塩頭で背は低く、作業着姿で無精髭を生やし、狡猾そうな顔をしている。二トントラックにはH設備と会社の社名が入っていて、一応は勤め人らしい。後日修理代を見積もって請求することになり、オヤジと別れた。

車はフロントバンパーが凹んで走るに支障はない。だが一気にサーフィンモードが消え去り、知っているモータースへ行った。

モータースの人に事情を話すと、災難だっけな、と言われ軽く見積もってもらった。すると修理は一週間位で四万ほどとなる。そのまま車を預けて代車の軽自動車を借りた。

その夜、オヤジの電話番号が正しいか電話する。するとオヤジは出て事情はわかったと言った。それでも胡散臭いオヤジの電話番号は正しかった。住所も免許証で控えたから正しいだろう。と思いながら車が直るのを待った。

 修理完了の前日、オヤジに明日車が直るから修理代三万八千円と電話で伝えた。ちょうどオヤジの現場が清水らしい。オヤジの現場を聞いたらぼくの家から近いので、現場に取りに行くことになった。

翌日の夕方五時すぎ、その現場にオヤジは居て、やはりモータースで払ってもらう。ぼくはそこまで代車の先導で案内した。モータースに着いたら突然オヤジは『今日、どこかで金を落としちゃって』と言い出した。何を急に嘘臭いことを言っていると思い、『嘘だろー』と言っていた。モータースの人も怪げんしている。どうしてくれるのだと聞いたら、明日ここのモータースに今くらいの時間に修理代を持って来ると、約束して帰した。何となく怪しいオヤジだとモータースの人と話してその場を後にした。修理代は払ってないが代車と自分の直った車を乗り換えた。オヤジを信じるしかない。

翌日、午後六時頃モータースに行ってみると、あのオヤジは来ないと言った。


「えっ、オヤジ来ない?」


オヤジはモータースの人とも会ったため、てっきり修理代三万八千円を払いに来たとばかり思った。モータースの人は『今日来ないじゃ、多分明日も来ないだろうな』と言っている。電話を借りてオヤジに掛けてみたが出ない。当然モータースにも掛かって来て来ない。とりあえず家で電話してみると言い帰った。帰り際にモータースの人は、


「あのオヤジが払ってくれない時は、浜崎さん、気の毒ですが頼みますよ」


と、念を押された。何となく詐欺に合った気持ちになる。ぼくはオヤジのことを『Mのヤロー』と呼び捨てになっていた。

家に着き早速、Mに電話するが出ない。三十分置きにしたが出ない。Mは居留守をしていると思い、この日は諦める。友人カニエイへ電話をして事情を話した。

明日、モータースへ払いに来なければ、電話も出ないならカニエイとMの家に行ってみようとなった。この場合、金銭事だから独りより二人の方がいい。

翌日やはりMはモータースに現れない。夜、電話を何十回としたが出ない。ぼくは腸が煮え繰り返っている。Mは逃げ切る気だ。


「Mを追い込んでやる、ゆるせねー」


声を低くつぶやいた。そして翌日の夜、カニエイとMの近所まで来た。公衆電話から電話をしたらMが出たではないか。


「Mさん、何でモータースに来ないんだ!」


と聞けば、仕事が忙しく行けなかったといった。Mらしい嘘の返事だ。さすが小狡い奴。明日にもモータースに行くと言っていたが僕は、


「嘘だ、今近くだしこれから行くから」


と、まるで取り立て屋のように言い、Mの家へ二人で向かった。と言っても場所を正確にわからず、十五分位探すと着いた。十二世帯ある小さなアパートだ。

早速、三〇二のMの部屋を探す。郵便受けには名前が書いてない。Mらしいとぼくらはぶつぶつ小言をはいた。部屋の前でカニエイと構えた。ぼくがチャイムを鳴らす。が、出て来ない。何度も鳴らすがMは出ない。


「おかしいな」


カニエイとぶつぶつ文句を言った。まさか十五分の間に逃げたのか。


「今までのことから、奴なら逃げそうだ」


と、カニエイへ向けた。ドアノブをゆっくり回すと開いた。Mは鍵を掛けていなかった。

ぼくは一挙に開けて『Mさん、Mさん』と玄関から覗き込むように言った。だが、Mはいない感じだ。


「チキショー、逃げられたな」


覗き込みながらぼくは言っていた。玄関からはキッチンがみえ、空の焼酎やビールビンが多量にある。水道の洗い場には茶碗や皿やコップが散々と置いてあった。いかにも独身者Mという感じが目の当たりにわかる。まあ予想通りの部屋だったが。Mの家はわかったから、また出直す事になり今夜は退散した。家に帰ってまたMに電話を掛けたが、当然出なかった。なんてずうずうしい奴だ。

翌日の夕方モータースにMが来たか電話で聞いたが、やはり来ていない。逆に『浜崎さん早めに修理代お願いします』と、完全にぼくが払うようになっている。しかし、ここで払ったら負けた事になり、Mを逃す。その夜はM家に一人で行き、何回もチョイムを鳴らしたが出て来ない。ドアを回すと鍵が掛かっていた。近所で電話してもやはり呼び鈴だけだ。

やはりMは払わないつもりだ。

事故した時、警察を呼んでいない。理由はただの接触事故で軽かったからだ。相手も修理代を払うと言ったので、胡散臭いオヤジだったが信用してしまった。だけど現実は払わない。詐欺か当て逃げ事件に相当するのではと思った。

次の日、事故から十日以上たっていたがダメ元で警察へ電話をしてみると、逆に説教された。その日に検証して事故証明を取っていないとダメと言った。その警官はいかなる事故でも警察に報告し実況検分を行って事故証明証を取らないと逃げられた場合、証拠がないから事件にならないと怒られた。十日以上もたっていたのも遅すぎると言われた。何となくぼくだけ世間からはめられた感じ。悪人と正義に。こうなったら自力でやるしかない。

翌日の土曜の夜、カニエイとM家に乗り込んだ。チョイムを何回か鳴らしても出て来ない。土曜だから奴は酒を一杯飲んでるだろうと思ったがいない。ドアノブをゆっくり回すと開いた。声へドスを利かせ『Mさんいるのかー』、『いいかげん、逃げるなよ』と。反応はない。また留守にしている。このアパートの他に家でもあるのか? 

Mからかなりバカにされている。頭に来ていたので上がることになった。

「もしMが警察と来たらどうする?」

 カニエイへ振り向く。

「金を払わないからだというしかない」

この段階でMの勝ちだろうな。

一応は靴を脱ぎ上がった。金目の物はあるか探すしかない。Mが押し入れに隠れてるかも知れないので警戒もした。

M家の玄関を上がると二畳位のキッチン。ツードア冷蔵庫があり、中を開けたらかまぼこやはんぺん、塩辛など酒のつまみが少々。冷蔵庫の上には電子レンジ。冷蔵庫の横には小さな食器棚で仕切りがあり六畳の部屋だけだった。一Kの間取りだ。 

部屋には薄汚れたパイプベッド、数カ月干してないせんべい布団。周りには作業着や紺色ハイネックシャツ、競輪新聞などが散乱している。ぼくとカニエイはいかにも奴らしいと話しながら物色した。ベランダには肌色の作業着しか干していない。

押し入れが開いていて、バイクの雑誌などが積み重ねてあった。それに気が付いたぼくが、『カニエイ、Mの奴バイク好きみてー、ここに沢山あるぞ』。するとカニエイが『あんな奴でもバイクが好きだ、でも買えねえらー』と同じ趣味に頭が来ているようだった。

そしてカニエイは『奴ならバイク、パクるだろう』と。ぼくは『だけど直結などの高等な技術が奴に出来ないぜ。車の運転が下手そうだったし』と、二人は物色しながらやたらとMを罵っていた。その癖にこの状況は警察が来たら現行犯でもある。

ぼくは額縁に入った賞状を見つけた。『カニエイ、大ニュース。Mに娘がいたぞ!』それは中学の陸上大会で三位の賞状だった。Mの名字に女性の名だった。当時の二年前の賞状だった。ぼくとカニエイは、奴にこんな好成績を残す娘がいたとは、かなりのショックだ。『絶対離婚したら』とぼくが言うと、『そうら、大方借金作ってカミさんに愛想尽かされ娘とともに出ていったんじゃねえの』。ぼくは『そのときの娘のことを愛しく思い、忘れた賞状を持ってるだな。だけど押し入れのバイク雑誌の下敷きだぞ』とぼくらは勝手に想像しながらMをバカにした。

カニエイとともに不法侵入並びに窃盗未遂だったが、誰にも見つからずM家を後にした。

この時点でMより罪が重い。奴は日頃から騙す事をやっていたのかと疑問だ。

だが、ここで他の騙された人達には会っていない。でも過去に多分やっていただろうと自分は念を押した。なぜならモータースまで騙したからだ。

翌日、日曜の朝もMに電話したら『現在使われておりません』になっていた。まさかと思いカニエイと午後にM家へ行ったらドアが開かない。電気メーターへ、使用停止、と赤字札が貼ってある。まさか出て行ったのか……。
昨日は開いた。もしかするとMはどこかでぼくらを監視していたのか。

月曜日、Mのアパートは会社の社宅なのかと思い、勤めているH設備をタウンページで調べ電話した。するとMは六日くらい前に辞めている。そしてアパートのことを聞いたら、やはりそこは社宅だった。話しによると、昨日の朝早く、家財道具ともども出て行ったらしい。不意を突かれた。やはりどこかで監視していた。そこで疑問も出る。

なぜ不法侵入時、警察に言わなかったのか? ぼくらの方がその時点で罪が重い。Mが通報すれば、奴の余罪がバレるからか。いずれにしろ、Mに逃げられた。ということは、渋々、モータースへ三万八千円を払ったのだ。モータースは『やれやれ災難だったね。今度は警察通しなよ』と言っていた。

しかしMはたった三万八千円で会社を辞め、社宅を出て行くとは、そっちに掛かる金の方が高く付くのではないかと、カニエイも当然のようにうなずいた。実はMは凄い奴なのかもしれなかった。

だが引っ越し費用も多分踏み倒すのだろうと、ぼくとカニエイは酒を飲みながら語った。

そして二人は酔ってきて、M家へ侵入した話しに華が咲いたのはいうまでもない。そうなると三万八千円は安くすんだトラブルだったのだろう。


つづく

(野口)わたしっちもなにもないからね…


 
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